Episode2 逆風

長年にわたり父に仕えてきた番頭が突然退職。

これで終りでなかった。驚いたことにこの運転手は一月二十五日の給料日に現れたのである。私は「十日分の給料は事故の解決の目途がついたら払うから、それまで待つように」と話した。

納得したと思ったら、翌二月二十五日の給料日に五、六人の仲間と現れ、高飛車に「金を返せ、さもないと訴える」と騒いだのである。私はあきれて「こんな馬鹿者は相手にしても仕様がない」と思い、十日分の給料を支払った。

後でわかったことだが、何と運転手と仲間の連中は前述の宗教団体の会員であった。この件は常識では考えられない嫌な出来事で、人間不信に陥ってもおかしくない酷い事件だったと言える。

「貧すれば鈍する」とはこういうことか。そのように会社を経営している以上、大小のトラブルは避けて通れないものである。

特に食品会社では、商品が破損したとか中身が腐敗していたとか消費者からのクレームが月に一、二度は必ず届き、その都度、営業部員や責任者が謝りに行く。東京都内ならまだしも、時には九州、北海道に謝りに行くこともあった。