次の日合コンの写真ができてきた。

何枚かの写真を村上から無造作に渡された香奈は、どきどきしながら自分の部屋に行くと、小林の写真を一人で眺めた。どの写真でも小林はむすっとした顔をして端の方に立っている。

香奈はそっとその中の一枚にキスしてみた。小林に抱かれたらどんなだろうと思って、鏡の前で唇を結んでポーズを作ってみる。その後ひどい自己嫌悪に陥った。

「香奈、このごろ機嫌悪いんじゃないか」

村上に聞かれて、香奈は頬を膨らませた。いつもなら、「そんなことない、失礼ね」とか明るく切り返すところだが、言葉が出てこないのだ。香奈はその日の夜一人で泣いた。なぜか苦しい。

日曜日に一人で、近くの山に行ってみた。歩いていると、重苦しい気分が少し晴れる。山の中腹で、小鳥が鳴いているのを聞いた。「こんにちは」杖をついた老人たちの一行が、香奈に挨拶をして通り過ぎていく。

「あれがコガラなんだよ」わざわざ親切に教えてくれる人がいる。感情が高ぶっているのか、こんな些細なことでも、人情を感じて涙が出てくる。二時間ほどで山頂に着いた。

抜けてきた背後の雑木林からは、風の音とともにひそかな草いきれと土の匂いが感じられる。
すべて打ち明けてしまえば楽になれるかもしれない。

あるいは濃く、あるいは薄い山襞がうねうねとどこまでも続いている、秩父の山々を遠く見晴るかしながら、香奈はそう思った。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『百年後の武蔵野』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。