「おばあさんは、30年前に亡くなった」
と正直に答えると、
「えっ、亡くなった? そんなこと、私、知らないわ? 私に何で言うてくれないの」
と強く反抗された。

その後は、寄り添う言い方に変えた。
「おばあさん。どこに行ったんやろか。もしかしたら、買い物かもしれない。
もうすぐ帰ってくるから、それまで待ってよか」
と言うと、素直に従った。真夜中の場合は、

「夕べ京都に帰ったわ。お前寝ていたので、豊ちゃんによろしくと言ってたよ。
明日またここに来るよ。今日は、もう遅いから寝ようか」
と言うと素直になってくれた。

「お母ちゃんは、どこ行った」は、妻を24年間育てて苦楽を共にした実母のことだ。それだけに一番記憶が強いのかもしれない。

「昔亡くなったやろ。お前と一緒にお葬式に出席したやん」
と本当のことを言うと、

「えっ。お母ちゃんが亡くなった。そんなこと、私、知らんわ。
お葬式も行ってないし覚えてへん。お父さんは、何で私に隠すの? 信用できへんわ」
と反論されて困った。その後、寄り添う言い方に変えた。

「お母さんは、お前が寝ている間に、家に帰ったみたい。
明日、また来ると言っていた。明日の朝、電話してみようか。今日は、もう遅いから、休もう」
と伝えると抵抗なく納得してくれた。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『認知症介護自宅ケア奮闘記 私の知恵と工夫』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。