「駿! おいっ! 駿? 聞いてる?」と籠った声を発して、僕の肩を叩いてきたのは、フンガフンガと息の荒いクラスメイトの小林だ。ただでさえ顔の形が四角形で、馬鹿でかい図体をしているのに、「フンガー」って言ってしまうと一層フランケンにしか見えない。あと、ライトブルーのジャケットだけ用意すればほぼ仕上がるのである。

フランケン小林の言葉に続けて「駿ちゃん的に、『あかんたれ』はどう思う?」とマコトが僕に問う。僕は、「田中先生、めっちゃ言いそうなフレーズやな。全然ありやろ」と回答。

「オッケー。ほな、『あかんたれ』も1ポイントにしようや。タケ、『しもた』の横に書いといてや」とマコトが請求し、同じくクラスメイトのタケが坊主頭を大きく縦に振って頷く。授業で使用したプリントの裏に『あかんたれ=1ポイント』と追記した。

次に「『かめへん』は?」と僕が提案する。「お!? ええやん、駿。『かめへん』は激熱」とフランケン小林が反応。「ほな、『かめへん』も1ポイントな。『あかんたれ』の横に書いて」とマコトが再請求。タケが、プリントの裏に『かめへん=1ポイント』と追記。教室の掛け時計をチラリと見たタケが「そろそろ、田中先生、来る時間やで」と言った。タケの忠告を受けて、マコトが仕切る。

「ほな、整理するで。次のホームルームの時間内で、田中先生に『あかんたれ』『しもた』『かめへん』。この3つのワードを言わせたヤツが勝ちな。駿ちゃん、小林、タケ、俺の個人戦で、言わせたヤツから早抜けな。三位と四位が、一位と二位に、ラーメン奢ることな。オーケー?」

坊主のタケが「一位と二位の差はつけへんの?」と尋ねたので、僕が「一位はトッピング全部のせスペシャルラーメンで、二位は並ラーメンで」と提案すると、全員一致で賛同。「あとさぁ」と僕が付け加えると、マコトとタケと小林の計六つの眼が僕に焦点を絞る。

「『かめへん』については、確率変動の可能性があるやろ?」

「どういうことよ?」とマコトが聞き返し、後の二人は僕の説明に耳を傾ける。

「『かめへん、かめへん』ってこと」

「確変って、2回連続して言うってことね? 先生、言いそうやなぁ」とマコトがニヤけて、「その時は2ポイントやな」と続ける。

「マコト、お前はアホやなぁ。『かめへん、かめへん』は、革命やないか」

「革命? 革命なん? 革命て!」とマコトはケラケラ笑って、他の二人も笑った。

「『かめへん、かめへん』は革命で、これが出た時点で大勝利や。最強ってこと。大富豪みたいな感じでひっくり返って、三位でも革命起こしたら一位になんねん」

「なるほど。そしたら革命さえ起こせば、大逆転できる可能性が常にあるっちゅうことや」

「せや、大逆転狙える要素を盛り込む事で、ゲーム性が高まるやろ?」

全員が納得したところで、本大会のオフィシャルルールが決定した。教室の隅っこで、いつだってイタズラを考えながら笑い転げる僕ら悪童四人組。鉄骨に包囲された二年八組の教室で、マコト、小林、タケ、そして僕。しょうもない計画を企てて、まるで宝石でも探しに行く冒険家のようにキラキラした眼とワクワクした鼓動と共に僕らは懸命に生きた。コソコソと悪巧みを画策している僕らを察したように、クラスの委員長の美樹が接近してきた。

「あんたたち! 次のホームルームで、また、ちょけようとしてるやろ!」

美樹は責任感があって、面倒見がよくて、凛としていて、いわば漫画に出てくるようなベタな学級委員長だ。クラスをまとめようとして、好き勝手に行動する僕ら四人に腕組みし、いつも注意をしてくる人物。

「おい! あんたら、委員長の私の言うこと、聞いてんの!?」と言った美樹に「うっさいなぁ」とマコトが煙たそうな態度をとる。続けざまに「次のホームルームで、学園祭の出し物、決めなあかんねんで! あんた、わかってんの?」「はいはいはい」「はいが多い!」「はいはい」「一つ多い!」「はい」「ほんま、頼むで」「はいよ」「よ、が増えてる!」

美樹とマコトは、僕らの前で夫婦漫才のようなものを繰り広げた。二人は付き合っている。詳しくは聞いていないが、もうアレも済んでいるんだろう。二人の阿吽の呼吸が僕にそんなことを思い起こさせた。

※本記事は、2019年11月刊行の書籍『尼崎ストロベリー』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。