「まあ」と云ったあと、一息ついてシマは続けた。

「とりあえず、ありがとう……黒田さんと丸が鹿屋航空基地? いよいよだな。あそこは、神風特攻隊の発進基地。この基地からも戦える男は全員出ていったわけか……」

シマは額の汗を右手で拭いながら、雲ひとつない上空を見上げる。今日も暑くなりそうだ……。

「沖縄もアメリカ軍に占領され、大和も撃沈されたみたいです」
「とうとう戦艦大和もか……さすが菊池一等兵、情報通だな」
「へへっ、極秘の通信基地に来てもう2年経ちますからね。へたな上層部より詳しいです」

涼子はぺろっと舌を出した。

「もうここも3人だけ……、それと上等兵はもういい、先輩で結構だ」
「東京の出張はいかがでした?」
「東京も空襲でひどいものだ。一面焼け野原だったよ、この戦争もいよいよ……」

シマは思い詰めた表情で云った。

「そこから先は言わないでください、聞かれたら大変ですよ」

涼子は口元に人差し指を当てる。

「それより涼子、体調はどうだ……」
「戦争で大変な時に申し訳ございませんでした。故郷(いなか)の病院で休ませてもらってだいぶ良くなりました」
「体は気をつけないとな……戦争もこれからが勝負か……」
「絶対、そうですよ」

涼子はうっすら微笑んで応える。

「それより、鈴木二等兵は」
「アツシ(鈴木二等兵)は基地の中です、なんか大変な情報を傍受、解読したということです。昨日も徹夜で大変だったみたいですよ」
「出張の間、ご苦労だったな。アツシからはあとで解読した内容を聞かせてもらおう……」

物体を洗い終え、シマは近くの木にしがみついている蝉を見つめ一服した。

「今日は特に暑いですね」

菊池一等兵は腰にぶらさげているタオルを取り顔の汗をぬぐう。まだ、化粧もしていない少女のようなあどけない面影である。

「とりあえず、ここではなんですので。陸軍・海軍大臣も出席したという東京の極秘会議の話、基地の中に入って聞きましょうか。その秘密兵器も持って……」

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『浦シマかぐや花咲か URA-SHIMA KAGU-YA HANA-SAKA』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。