『痛いっ!』

ごそっと何か重たいものがひまりの足元に直撃した。何かと思って見ると赤いリュックサックが落ちていた。それはもちろん、ひまりのリュックサックだが、しばらく訳がわからなかった。

駅のホームではせわしなく歩く人の姿が見える。気が付くとひまりは駅のベンチに座ったままだった。私はここで何をしているのだろうか? あっ、そうだ、アッキーママのお見舞いに行くところだったのだ。

でも、確か退院したからそのお祝いにスイトピーの花を買ったはずなのに、なぜか持ってない。今の状況がわからないひまりだった。

あれ、これって夢だったのか、そっか、夢を見ていたのだと我に返った。アッキーママは退院してないのだ、これからお見舞いにいく途中だった。あれっ、手紙はあるか。ひまりは赤いリュックサックの中を確認した。

緑色の封筒の模様は小さなウサギである。ひまりはウサギがとても好きだった。死んだお母さんが毎日のようにピーターラビットの本を読み聞かせをしてくれていたのだった。主人公のピーターラビットはウサギである。

遠い地方の美術館までひまりは死んだお母さんと一緒に、ピーターラビット展を見に行った思い出がある。そこで買い求めたのがその封筒であった。

夢から覚めたひまりは封筒を見つめて、駅のホームのベンチに座ってただ首を長くしてアッキーを待っていた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。