タイムアウトをスムーズに終える。

「メスください。それではお願いします」
僕はそう言って患者さんのお臍にメスを入れる。

「お願いします」
畠先生や周りのスタッフも僕に倣って声を出す。神谷君もワンテンポ遅れて「お願いします」と小さく言った。

「まずはここにガーゼを置いて、胆嚢の頸部の視野を確保します」
「ここのレベルから漿膜(しょうまく)を切っていこうと思います」

手術は順調に進む。前回とは違って自分のペースで進んでいる。

「いい感じだね」
畠先生もプレッシャーをかけずに見守ってくれる。

「胆嚢動脈、胆嚢管が出たのでクリップして切離します」

山は越えた。あとは肝床部(かんしょうぶ)の剥離を進めて胆嚢を摘出するだけだ。
この時、1時間10分が経過していた。

「もう最後までいっちゃおうか」
「はい」

こうして僕は2回目の執刀を完遂することができた。手術時間は1時間30分だった。もちろん、上級医が執刀すればこの手術は1時間程度でできるし、畠先生に助けられたところもかなりあった。炎症がほとんどなく、手術自体が簡単だったこともある。しかし、自分で最初から最後までできたという事実は自信になったし、この調子で頑張れば大丈夫という励みにもなった。

「2例目で完投とはすごいね。僕は10例目くらいでやっと2時間かけて完投させてもらったから」

畠先生はそう言ってくれた。畠先生は若手だが、今では大腸癌や胃癌、膵臓癌などの大手術の執刀も任されるくらい優秀な先生だ。そんな先生から褒められるなんてとても気分が良かった。