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まったくエリザベスときたら、ラリー・ナビゲーターの素質十分だ。

ターミナルでタクシーに乗り換え、ポルタジェン広場を北上すると、道路の一部を広げて作った細長い広場に行き着いた。コメルシオ広場である。《アート・ギャラリー・コインブラ18》は、この広場の西北の端に位置していた。

モデルニスモ様式の石造四階建ての建築は、一階が画廊になっていた。二階はレストラン、そして三、四階はアパートの造りのようだ。左脇にある堅木の框扉を開くと、店主らしい男が店番をしながらこちらを見ていた。

「失礼ですがメリダ・パスティーリョさんでしょうか? 私は宗像俊介、こちらはエリザベス・ヴォーンさんです。ポルトのロドア画廊さんにご紹介いただいてこちらへ参りました」

「私がパスティーリョです。お待ち申し上げておりました」

「先日、ロドア画廊さんに譲られた四枚の油絵についてお尋ねしたいことが。ええ、A・ハウエルさんの描いた絵のことです。私どもがその四枚とも買わせていただきましたが、あの絵をどちらから入手されたのか、差し支えなければお話しいただけませんか?」

店主のパスティーリョさんはニコニコと愛想の良い作り笑いをしながら、いかにも残念そうにこう言った。

「はい、あの絵のことですね。あなたたちがコインブラまで来ることが分かっていれば、ロドアさんに売り渡さなくても良かったのに、まことに残念でした」

パスティーリョさんはさらに続けた。

「実は半年ほど前のことです。そうですね、年のころ五十歳くらいでしょうか、一人の男性が店に現れましてね、買ってもらえないかと六点の絵を持ち込んだのです」