「よくテレビなどで、理学部の出身で医学博士とかなんて肩書きを見るじゃない。一度びっくりしたのは医学と全然関係ない、工学部の教授か何かで、医学博士という肩書きを見た事も有る。どこの学部の卒業でも論文書いて審査に通れば学位をもらえるし、医学部の助手とかに成れるらしいよ」

本当か、3人が口々に声を発した。それでは医学部に来る意味がないではないか、と各人が心の内でつぶやいた。

「助教授まではなれるらしい、教授はだめだと聞いたけど、本当かどうかは知らない」

そうかもしれないな、と誰からともなく頷いた。
胸部の皮膚を剝がして皮下の脂肪を露出させながら、田上が続けた。

「医学部を卒業しても、それだけでは何の価値もないってことさ。国家試験をパスして医師免許を持たなければ、ただの大学卒でしかない」

高久も作業を休める事なく、付け足した。
「ただの大卒より、年くってるだけ不利らしいよ。知らない人は、医学部に合格したら、それでみんな医者になれると思っているらしいけど、皆が皆なれるわけじゃないんだな」

「どういうこと?」
思わず反射的に僕は聞いた。

「いろいろとフルイにかけられるんですよ」と高尾。高尾は2年うえに兄がいて、それでよく聞き知っているらしい。

「フルイって?」

「大学により違うだろうけど、まず、教養部から専門に上がるとき、次に4年から5年に移行の時、そして卒業試験、最後に国家試験。全部一度で通るのが当たり前と思うかもしれないけど、油断すると留年したり国試を何回も受けることになるし、最悪受からないままということもありえるらしいですよ」

高尾の話には何か真実味がある。