ひまりはアッキーが怒っていないのに心から安堵し、また遊びに行ってアッキーママとたくさんお喋りして楽しい時間を過ごしたいと思っているのだった。しばらく時は過ぎていった。冷たく、しとしとと降っていた雨がようやく上がった放課後、ひまりはアッキーに聞いた。

「今日、これからアッキーの家に行っていいかな?」

アッキーはそのひまりの言葉に一瞬、どきっとした。そろそろ、そんな事を聞かれるのではないかと思っていたからだ。

アッキーは頭がぐるぐる回転してすぐに言葉が出ない。どうしたものかと下を向いて考えているとひまりは、再び聞いてきた。

「ねぇ、アッキーママにまた会いに行ってはだめかなぁ?」

アッキーは噓をつきたくは無かった。ひまりにだけは噓をつきたく無かった。でも、しかし、けれど、なんて答えていいかわからない。

アッキーは口をへの字にして無言のままひまりの顔を見てから、

「アッキーママは今、家に居ないんだ」

知らなくてもいい事がある。知らない方がいい事もある。けれど、今、アッキーはひまりに伝えた方がいいと思った。

「どうしたの? 旅行にでも行ったの?」
「いや、違うんだ」
「どうしたの? どうしたの? どうしたの?」

ひまりはしつこく聞いてきた。

「入院したんだ」
「え~~~、どこが悪いの? 怪我でもしたの? それとも病気?」

ひまりは大きな目を大きく開けてびっくりしている。

「う~ん、う~ん、怪我じゃないんだ。病気なんだ」

アッキーの『病気』と言う単語はどこか悲しげである。

「どんな病気? 内科?」
「う~ん、内科じゃないんだ、精神科なんだ」
「精神科~~~?」

またまた、ひまりは大きな目をさらに、大きく開けてアッキーを見つめたのだった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。