福島でShall we ダンス?

ところが、この方針は看護師や職員たちの猛反発にあってしまいます。

無理もありません。それまで飯を食べさせ薬を飲ませておけば、後はのんびりと詰所でくつろいでいればよかったのに、27~28歳の若造の医師がいきなり東京からやってきて「あれやりましょう、これやりましょう」と言いはじめたのですから。明らかにけむたがられているのはわかりました。それでも私はなにかをやってみないわけにはいかなかったのです。

あるとき、私は患者たちにダンスを習わせてみようと思いました。ちょうど、私の学生時代に社交ダンスのブームがあり、私も教室に通ったことがあったのです。社交ダンスというのは、ただ音楽に合わせて体を動かすわけではありません。作法やステップをおぼえ、リズムに合わせて足を運びます。

「スロー・スロー・クイック・クイック・スロー」

頭と体を同時に働かせなければできませんし、それができるとじつに楽しい。手とり足とり教えていると、音楽につられてか、それまでゲームや体操に興味をしめさなかった人たちも動き出しました。

そして驚いたことに、やがて彼らは正しいステップが踏めるようになったのです。

「こころの病をもつ人はほうっておけば寝ているばかりだが、教えればこうやってダンスもできるようになるんだ」

と、私は嬉しくなりました。ただ、社交ダンスというのは本来、男女ペアでやるものです。精神病棟は男女別々に収容されており、異性が相まみえることはぜったいにありません。ですが、私は前代未聞のとんでもない提案をしたのです。

「せっかくみんな、ステップができるようになったのだし、こんなに一生懸命やって練習だけで終わらせたら気の毒です。(男女混合の)ダンスパーティーをやりましょう!」

これには日ごろから私のやることをこころよく思っていなかった看護師や職員一同から、いっそうの猛反対をうけました。

「先生、それはぜったいに危険だからいけません」
「そんなことをやってなにか起きたらどうするんですか!?」

それでも私は「とにかくやってみよう」と強行してしまいました。

実際にやってみると、普段は小汚い格好をしている患者たちが、男性は背広を、女性はワンピースを着るなど、おしゃれをしてきたのです。これには私もびっくりしました。そうしてダンスパーティーは、職員たちが心配したような危険な事態にもならず、大盛況のうちに終わりました。
 

※本記事は、2017年10月刊行の書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。