外傷の程度が軽く、脳振盪(のうしんとう)程度の意識障害、あるいは軽いため本人が頭を打ったことすら忘れているというケースも少なくない(約30%)のです。飲酒の機会が多かったり、記憶がなくなるまでの深酒をしたりする人は、注意が特に必要です。

頭部打撲後、1~2カ月後の間に急激に症状が悪化することが多く、症状として、頭痛、片麻痺(転びやすい)、記銘力低下(もの忘れ)などの認知症症状、失語、意欲低下、言語障害(言葉がうまくしゃべれない)、意識障害などが徐々に(あるいは急に)進行する場合に、この疾患を疑います。

特に頭部打撲の既往があるときは、この疾患を強く疑うことになります。脳梗塞や四大認知症などと症状が似ているため間違われることがありますが、CT、MRIなど画像診断を行うことで診断が確定します。

[図1]左慢性硬膜下血腫のCT像とMRI像
70代女性。某年5月26日自宅で転倒し受診し、検査で異常なく経過観察となったが、夫によると6月初旬より会話が成立しなくなった。6月13日救急車で受診。血種貯留像(灰白色~白色)がみられ、血種がある側の脳のしわは血種による圧迫 のために不明瞭になっている
[図2]右慢性硬膜下血腫のCT像とMRI像
60代男性。2日前から左下肢が重たいと言い、歩行中に引っかかったりスリッパがうまく履けなくなったりした。1カ月前に仕事中に頭部を打撲した

治療は比較的容易で、穿頭(頭蓋骨に10円玉から500円玉くらいの大きさの穴を開ける)をして、その穴に細いチューブを入れ血腫を排出させ、さらに血腫腔を洗浄・除去します。この施術により、多くの患者さんで認知症の症状、神経症状、精神症状が急速にまた著しく改善し、全く元通りになります。

血腫が比較的少量で、症状が軽い場合は、経過観察している過程で血腫が自然消退することも稀ではありません。

[図3]慢性硬膜下血腫の手術模式図
※本記事は、2018年5月刊行の書籍『改訂版 認知症に負けないために知っておきたい、予防と治療法』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。