この頃、F看護師は、処置室でヘパ生と黒色マジックで書かれた注射器が置いてあるのを見付けて薬剤の取り違えに気付き、病室内のE医師を手招きして呼び出し、出てきたE医師に「ヘパ生とヒビグルを間違えたかもしれません。」と告げた。

ソルデム3Aの点滴は、点滴器具内に残留していたヒビグル約9mlを全量Aの体内に注入させることになり、これが致死原因となった。同日午前9時30分頃、Aは、突然意識レベルが悪化し、眼球が上転し、心肺停止状態になった。

E医師ほか1名の医師が心臓マッサージと人工呼吸を行い、Aは病室から処置室へ移され、ボスミンを投与(心腔内注射及び静脈内点滴)された。

同日午前10時20分ないし25分頃、D医師が到着し、Aに対し心臓マッサージを行ったが、その際、D医師は、E医師から容態が急変した前後の状況及びF看護師が薬剤を間違えて注入したかもしれないと言っていることを聞かされた。

D医師は、心臓マッサージを数分間行ったが蘇生の気配が全くなかったため、心臓マッサージを他の医師と交代して、別室でAの夫Cら親族に対する状況説明を行い、親族の意向も聞いて、人工呼吸等の蘇生措置を止め、同日午前10時44分にAの死亡を確認した。

D医師は、Aの死亡後、胸部レントゲン検査を実施し、「左気胸(ボスミン心注あるいは心マッサージによる肋骨骨折のために起こした)、心臓は右方に変位、前縦隔の拡大はなし」とカルテに結果を記載した。その後、D医師は、死亡原因が不明であるとして、その解明のために病理解剖の了承を親族に対して求め、これを得た。

その後、看護師らは、死後の処置(エンゼルケア)を行った。蘇生措置から死後処置をしている間に、複数の看護師がAの右腕血管部分に沿って、血管が一見して紫色に浮き出ているという異常な状態であることに気付いていた。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。