第3章 東京都立広尾病院事件判決

(2)東京都立広尾病院事件東京高裁判決と医師法第21条

東京都立広尾病院事件東京高裁判決

同日午前8時30分頃、F看護師は、ビクシリン(抗生剤)の点滴をするため、ビクシリンと点滴セット、アルコール綿のほか、注射器1本をAの所に持って行き、点滴の準備をして、同注射器やアルコール綿等を床頭台の上に置いた。

このときF看護師は、ビクシリンの点滴終了後に行うヘパロック(患者に刺した留置針の周辺で血液が凝固するのを防ぐため、血液凝固防止剤であるヘパ生を点滴器具に注入して管内に滞留させ、注入口をロックする措置)用に使用するため、ヘパ生入り注射器を持参したつもりであったが、実際にはヘパ生ではなく、ヒビグル入り注射器であった。

F看護師は、同日午前8時35分頃、Aが朝食及びトイレを終えるのを待って、ビクシリンの点滴を開始した。同日午前9時頃、Aはナースコールをして、応答したG看護師に対し、点滴の終了を告げた。

G看護師は、5号室に赴き、同日午前9時3分頃、Aに対し、置いてあった注射器を使ってヘパ生を点滴したつもりであったが、その際、床頭台に置かれていた注射器にはヘパ生が入っていると軽信し、ヘパ生入り注射器に記載されているはずの、黒色マジックによる「ヘパ生」の記載を確認しなかったため、結果としてヒビグルの点滴を開始した。この結果、ヒビグル約1mlがAの体内に注入され、残り約9mlは点滴器具内に残留した。

同日午前9時5分頃、F看護師が5号室に赴いてAに声をかけたところ、Aは、「何だか気持ち悪くなってきた。胸が熱い気がする。」と言って苦痛を訴え、胸をさする動作をした。この後、血圧を測定すると、最高血圧は1130mmHg以上であった。

同日午前9時15分頃、Aは、顔面蒼白となり、「胸が苦しい。息苦しい。両手がしびれる」などと訴えたことから、当直のE医師の指示により、血管確保のため維持液(ソルデム3A)の静脈への点滴が開始された。

この頃、Aの血圧は最高198mmHg、最低78mmHgであり、心電図検査の結果は、V1でST波の上昇、V4でST波の下降があったが軽度であり、不整脈はみられなかった。