卒業式が終わると、下駄箱から校門までは人で溢れかえっていた。両親と記念撮影する者、友達同士で別れを惜しんでいる者と様々だった。

賢一は人込みの中を、一人で校舎を出て校門の方へ歩いて行った。賢一はいつも一人だった。その積極性に欠ける性格から、唯一話をしていたのが、幼馴染で隣のクラスの禅だけだった。校門の近くまで行くと、禅が二、三十人の女子下級生に囲まれていた。中には泣いている者もいる。

「先輩がいなくなったら寂しいです……」

賢一は、そんな会話を聞きながら、邪魔しては悪いと思い、そっと通り過ぎて行った。賢一に気付いた禅は振り返ったが、とても声を掛けられる状況ではなかった。

門を出て、家路に向かう賢一は思った。
“近所だから、また会えるだろう……”

そう思いながら中学校を後にした。それは禅も同じだった。しかし卒業後の春休み、賢一の母親は身体の調子が良くなかった。そのため、母親と一緒に母親の実家に帰省してしまった。母親思いの賢一は、少しでも母親の近くで世話をしてやりたいと思ったからだ。

禅は、高校には家から通うつもりだったが、学校の強い要望で寮に入る事になった。家から高校まで電車で一時間以上というのも理由の一つだった。そのため禅は、高校の寮に入るための準備に追われていた。

そして、高校が始まる前に賢一は戻ってきたが、禅はすでに寮に入っていた。結局、高校入学前に二人が会う事は無かった。そして、それぞれの高校生活が始まった。

賢一も、禅とは方向が違うものの、同じように電車を乗り継いで、高校まで一時間三十分ほどかかった。金銭的な事情と母親を一人にする事は出来ないという思いで家から通った。そして、これを機に、二人が会う事は少なくなっていった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。