第一章 新兵

初年兵教育

砲手は一番砲手が柳絮(りゅうじょ)という引き金を引く者、二番砲手が照準を定める者、三番砲手が弾丸を込める者、四番砲手が火薬の入った薬を込める者、五番砲手が導昆(どうこん)という棍棒で弾丸薬莢を突っ込む者、六、七、八番砲手が砲側で弾丸、薬莢、信管を整備する者と役割分担が決まっていて、一番砲手から八番砲手を交替で訓練する。

二番砲手は照準手として最も重要な役割を果たすことから、最終的には成績優秀な者が二番砲手に任命される。このため照準を合わせる訓練には必然的に気合いが入った。

入営して十日目から砲手訓練と並行して乗馬訓練が始まった。まず厩舎から自分の担当の馬を出し、外の馬繋場に繋ぎ、馬具倉庫から毛布と鞍を出してくる。自分の家で毎日のように重い茶箱を担いでいた杉井だったが、馬の鞍はそれだけで三十キロもあり、これを駆け足で運ぶのは杉井にとってもかなりの重労働だった。

持ってきた毛布を四つに畳んで馬の背にかけ、その上に鞍を乗せるのであるが、馬は左右に動くし、その上自分の背丈近くまで持ち上げなくてはならないため、この作業も相当な腕力を要する。

毛布を敷く際に皺があると馬に鞍傷がつくため、しっかりと伸ばして敷く必要があるが、これも至難だった。ようやく鞍を乗せると次は腹帯を締めるのであるが、ここでも神風は杉井に意地悪をした。締めようとすると、わざと腹を膨らませるので、すぐ腹帯が緩み、鞍がずれてしまう。

古参兵のやり方を見ると、馬が少しでも腹を膨らませようとすると、「このクソたわけ」と腹をピシッとたたき、言うことを聞かせて力いっぱい締めているが、杉井が同じことをしてもすぐに従うような神風ではなかった。