首尾よく真皮だけ切開した場合は、次にその直線上の1点から垂直な方向に半直線を立てると、2つの直角ができる。その一方の角をピンセットで摘まみ上げ、そこをきっかけにして皮を脂肪層から剝がしてゆく。

身体から直角三角形の皮膚が立ち上がるような具合になる。それをくり返して長方形を作り、皮膚の扉とする。開けると、今は一面に黄色い脂肪の壁が見える。

最初に上腕を選んだのは間違いだったかもしれない。部位によって脂肪の層の厚さは異なるが、上腕部は非常に薄く、少しでも深くなると、脂肪層だけで無くその下の筋肉層まで傷つけてしまう。

場所が悪いと表層の神経を傷つけ、最悪の場合切断してしまいかねない。テキストをじっくり読むと胸腹部の正中、すなわち中央から切り進めよ、と記されていた。

他の3人はと見ると、どこから始めたのかわからないが、それぞれ苦心している。真面目だが、決して器用とは思えない高尾は、慎重にていねいに進めているので、誤り無くきれいだが、まだ僕の3分の1くらいしか切開してない。

性格の分からない田上は、何カ所もやり直した跡が有り、切開が深すぎて何カ所か脂肪層が黄色く口を開いているが、結局僕と同じくらいの量と質で仕上げている。

高久は、たくさん切り進んではいるが、脂肪がはみだしたり、切開線が汚い。
こんな所にも性格が出るものだな、と感心した。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『正統解剖』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。