住所はわかっていた。ひまりは住所を頼りに探してみる事にしたが、アッキーがもし帰っていたらとか、後から帰ってきたらとか、考えてみると不安になるばかりであった。家を探せないかも知れない。ただの無駄足になるかも知れない。

けれど、ただただ、アッキーママの笑顔が見たくて仕方がなかった。そして、今のひまりのありったけの勇気を振り絞って夕暮れにはまだ早いアスファルトの道路を急ぎ足で歩き始めたのだった。

ここだ、やっと、やっと見つけた、表札はローマ字でとてもお洒落に書かれていた。庭にはクレマチスがフェンスに絡み、オリーブの木だろうか、立派にそびえたっていた。

ひまりはアッキーママが手入れをしているのだろうかと思いをはせた。しばらく玄関のピンポンを押せずに立ち尽くしていた。

アッキーに黙って来てしまっているのだ。やっぱりこのまま帰ろうか、いやここまで苦労して探したのだ。二つの思いが行ったり来たりしていたのだった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ずずず』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。