参─嘉靖十五年、宮中へ転属となり、嘉靖帝廃佛(はいぶつ)の詔を発するの事

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私は、年があらたまらないうちにと、李清綢(リーシンチョウ)師父を司礼監にたずねた。挨拶に参上したのであるが、師父は、ざんねんながら、不在であった。その帰り道でのことである。

内書堂(ないしょどう)にさしかかると、女官たちが、二人の少年宦官にむらがっていた。

「ね? お姉さんが教えてあげるから。こっちへ来なさいよ」
「あなた、この前、逃げちゃったでしょ。失礼じゃない? 今日は逃がさないわよ」

とり巻かれた二人のうち、ひとりは小柄で、からだつきもなよやか、人なつこそうで、少女のようにも見える。もうひとりは長身で、きりりとした目もとが印象的であった。いずれも、なみの娘よりは、よほど人目を引く美貌である。

女官が、少年宦官にたわむれかかる光景を、はじめて見た。

年少(わか)い宦官は、ときには女官たちの愛玩の対象となることがあるし、中には、性の相手をする者もいるときいたことがあったが……。

内書堂に聚(あつ)まる宦官は、いわゆる選良である。将来、皇帝のそばちかく侍(はべ)り、権力者となることを約束されているようなものだ。彼らのうちでも最優秀の部類になると、科挙(かきょ)に及第した進士と議論をたたかわすことさえできるし、ゆたかな詩文の才を発揮して、文章を書くことも自由自在だ。