無我夢中で執刀中のことはほとんど覚えていなかったが、何度も見返しているうちに自分ができなかったことやほかの先生との違いが少しずつ浮き彫りになってくるのが分かった。

「研修医の神谷です。1ヶ月間よろしくお願いします」

7月になって初期研修医2年目の神谷君が外科研修にやってきた。学年は僕の1つ下になる。僕たち専攻医1年目と初期研修医とは、月に何度か救急外来で一緒に働いているため、神谷君とは面識があった。とても優秀な研修医である。

初期研修医は内科や外科、小児科、産婦人科などいろいろな科をローテーションしてひと通りの経験をすることが必須となっている。外科では最低でも1ヶ月間の研修が必要だ。

「神谷君は何科志望なの?」
「小児科です」
「そうか。子どもが好きなの?」
「それもありますが、親が小児科を開業しているので継ごうと思って」
「そうなんだ。とりあえず1ヶ月は外科で頑張ろうね」
「はい。よろしくお願いします」

神谷君は有名大学出身のエリートだった。研修医なのに堂々としていて、僕はすごいなと感心し少し羨ましく思った。