同月十一日午前8時15分頃、F看護師は、病棟処置室において、Aに対して使用するヘパリンナトリウム生理食塩水(以下「ヘパ生」という。)を準備するに当たり、充填済みの注射筒部分に「ヘパ生」と黒色マジックで記載されたヘパ生10ml入り注射器を保冷庫から取り出して処置台に置いた。

そして、これと並行して他の入院患者であるBに対して使用する、消毒液ヒビテングルコネート液(以下「ヒビグル」という。)を準備するため、新しい10ml入り注射器を使用してこれを同注射器に吸入し、これを前述のヘパ生入り注射器と並べて処置台に置いた。

そして、F看護師は、このヒビグル入り注射器の中味が直ぐわかるように、メモ紙に黒色マジックで「B様洗浄用ヒビグル」と手書きし、このメモ紙をヒビグル入り注射器にセロハンテープで貼り付けたつもりであったが、その注射器に「ヘパ生」と書いてないことを確認しなかったため、誤ってヘパ生入り注射器に同メモ紙を貼り付け、他方、もう一本のヒビグル入り注射器をヘパ生入り注射器と誤信した。

同日午前8時30分頃、F看護師は、ビクシリン(抗生剤)の点滴をするため、ビクシリンと点滴セット、アルコール綿のほか、注射器1本をAの所に持って行き、点滴の準備をして、同注射器やアルコール綿等を床頭台の上に置いた。

このときF看護師は、ビクシリンの点滴終了後に行うヘパロック(患者に刺した留置針の周辺で血液が凝固するのを防ぐため、血液凝固防止剤であるヘパ生を点滴器具に注入して管内に滞留させ、注入口をロックする措置)用に使用するため、ヘパ生入り注射器を持参したつもりであったが、実際にはヘパ生ではなく、ヒビグル入り注射器であった。

F看護師は、同日午前8時35分頃、Aが朝食及びトイレを終えるのを待って、ビクシリンの点滴を開始した。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『死体検案と届出義務 ~医師法第21条問題のすべて~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。