「でも私、ポルトガルは初めてで、ロンドンを発つときから旅行案内書を読み続けていましたの。外せない急用のため、ロンドンからアムステルダム経由でリスボンに入って、それであなたと同じアルファ・ペンドゥラール号に乗り合わせることになりました。それが宗像さんのご好意でタクシーに同乗させて頂いたということです。

でもポルトは初めてですし土地勘もありません。どうしようかと思っていた矢先、翌日のお誘いを受けて、便乗させていただいたわけです」

「でも……それが披露宴には出ないでここにいらっしゃる?」
宗像が指摘すると、エリザベスは多少むきになって反論した。

「本当に午後一時の披露宴には出るつもりですのよ。でも昨晩、部屋でパーティーの支度をチェックしておりましたら、コサージュを忘れてしまったことに気がついて」

「コサージュ?」

「胸飾りのようなものですわ。翌朝、コンシェルジェに相談しましたら、街の中心部に良いアクセサリーの専門店があると伺い、朝十時からオープンしているとお聞きして、タクシーを飛ばしてまいりました。でもその途中、大きい画廊街のあることを知りましたの。

運転手さんに確認しますと、数十軒くらいはあると言われ、何という幸運でしょうか、フェラーラのことが少しは何か分かるかもしれない。本格的に見るのは明日にするとしても、一時間ぐらいは大丈夫と判断して、急いで見始めたら、偶然この画廊であの絵を見つけたというわけなのです。

ええ、私も本当に驚きました。まさに私自身を描いたような絵に、ポルトで巡り合ったのですから」

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。