やっと私達は微笑み合った。私はマハの格好をしようと、ベッドに寝そべろうとした。

「いや、そのままでいい。座ったままで」

神矢が真剣な声で言った。イーゼルを立て、キャンバスをそこにセットした。

「どうすればいいの?」
「片足だけ……右の足を上げて、左足の上に乗せて。……右手を頬にあてて、左手は自然に垂らして、足の上に置いて。……そう、それでいい」
「何? これでいいの?」
「あぁ、いいよ。とてもいい。……以前、奈良の寺を巡って、仏像の取材をした事があるんだ。中宮寺っていう寺に、国宝の菩薩半跏像があって、素晴らしく美しいんだ。それは、その仏像のポーズだよ」
「私を仏様にするの?」と私は笑った。
「君を見てひらめいたんだ。これがいい。お乳も小さいし、体が細いから丁度いい」
「嫌だわ。胸が小さいのはコンプレックスなのよ」
「いや、それがいいんだよ。……髪はどうしようかなぁ……。右側の髪を後ろにやってみてくれないか?」
「こう?」
「そう、左側の髪は前に垂らして……」
「こう?」
「あぁ、それでいい。……君は本当に美しい。神々しいよ」

※本記事は、2019年6月刊行の書籍『愛』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。