くしゃみとルービックキューブ

3.

二ヶ月にいっぺんほど、華は歩けなくなる。突然、足腰に力が入らなくなってしまうのだ。だから立つことさえできない。仕方なく、移動するときやトイレに行くときは、両手を使い、這いずっていく。

この現象は厄介だと思うが、特別大変だとも感じていない。だいたい外出する用事などないからだ。トイレも部屋のすぐ隣にある。食事をする部屋は一階にあるので、そういうときは部屋に買いだめしておいたお菓子で済ます。立てなくなったときのために、華はコンビニで食糧を定期的に補充している。コンビニには十日にいっぺんほど行く。

部屋の中では時間潰しに事欠かない。読んでいない本や見ていないDVDも山ほどあるし、何よりインターネットにつながっているパソコンがある。

ネットは世界の窓口だ。なんだって調べられるし、ユーチューブで見たい映像もいくらでも見れる。欲しい物をなんでも取り寄せられる。代金は、幾つかある父親の口座のうちの一つから引きおとされる。気が付くと、そういうことになっていた。

いくらお金を使っても、父親は何も言わない。自分の親が金持ちだということを、華はじゅうぶん承知している。実際調べたわけではないが、口座にはうなるほど金があるらしい。父親は、銀行の預金額のゼロが減ろうが増えようが、蚊に刺された程度にしか感じないに違いない。

父と最後に面と向かって会話をしたときのことを、華は鮮明に覚えている。今から三年前、専門学校をやめたときだ。