「まず皮膚の切開から始めますが、実習書に書いてあるような分割線に沿って、切開していって下さい。その際、まず図に有るように、片方の手で切開を入れようとする所の近くを、中指と人差し指で軽く押さえて固定し、指を開くようにしてからメスを入れるようにして下さい」

モニターの停止していた画面が再開され、手袋した手で押さえられた皮膚のそばにメスが入れられ、弾けるように傷口が開く。下に黄色い組織が見える。血は出ない。処置されているのだろう。

今日は、説明だけで帰れるのだろう、という自分の淡い期待は完全に否定された事を僕は悟った。覚悟を決めて実習書をのぞき込んだ。出来損ないのシマウマのように、人体の体幹に割線が描かれている。

では、各班で始めて下さい。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『正統解剖』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。