また敬礼も、
「肘が下がっている」
「中指と人差し指の間を帽子の庇(ひさし)へ」
など細かい注文をつけられながら、毎日同じことを反復させられる。

小学生の「足並み揃えて行進」ではあるまいし、と馬鹿馬鹿しくなってくるが、五日もすると、指示どおりの歩行を身につけた結果、全員の動きが段々兵隊らしくなってきて、杉井は、これはこれで良くできた訓練なのかも知れないと思った。

徒歩訓練が一段落すると、砲手訓練が始まる。大砲の眼鏡(今で言う望遠鏡)が十個ついた机が営庭に出され、各人がその眼鏡の前に立ち、眼鏡の転把(てんぱ)に右手をかけ、下士官の号令に従って転把を動かし、数字を入れていく。

この際、転把に遊びがあるため、必ず右止めにするように言われる。下士官に「方向千」と号令され、まず指針を千に合わせる。それから「十右へ」、「四右へ」、「二左へ」、「五右へ」など言われるままに指針を動かしていくと、途中で答えを訊かれる。

うまくできなかった場合でも、簡単な数字なので暗算で答えが出るが、それをやっていては訓練にならない。初年兵のあとを四人の古参兵が巡視して号令どおり手を動かしているか、右止めにしているかなどを監視する。

暗算で答えを出しているのが分かってしまったり、右止めを忘れたりすると、必ず標桿(ひょうかん)という一メートルくらいの鉄の棒で頭をたたかれた。

※本記事は、2019年1月刊行の書籍『地平線に─日中戦争の現実─』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。