「お前は、いつもみんなの中心で目立っている、逆に俺は目立たない……ほら、イソップ童話にあるだろ? アリとキリギリスという話……」

「アリとキリギリス?」
「ああ、キリギリスは華やかに歌っていて、アリはいつも目立たず地道に働いている」

それを聞いて禅は思いだした。

「お前、俺がキリギリスで、お前がアリって言いたいのか?」
「まあ、そんな所かな」

それを聞いて、禅は笑うと首を振った。

「じゃあ、俺は最後に蓄えも無く、冬が来て死んでしまうのか? そして、お前は地道に働き、蓄えをして幸せに暮らす……そういう事か?」

賢一は、言い訳するように言った。
「いや、そう言う意味じゃないよ、エンディングはともかく生き方の話だよ、お前は才能があって良い音楽を奏でる、俺は才能が無いから、あくせく働くしかない」

「でも、確かにそうかもな……だけど、あの話のエンディングと同じにはならないぜ、俺は美しい音を奏でて、華やかに生きて行く……そして、ちゃんと蓄えて華やかなまま死んでいくんだ」

賢一は笑った。

「そうだよ、それが禅だ」
「お前も頑張れよ」
「ああ」

二人は笑った。

「なあ、賢一、お前は勉強をして遅くまで学校に居る。俺も練習で遅くなる。これからも一緒に帰らないか?」
「そうだな、帰ろう」

それから二人は、卒業まで一緒に帰る事になって行った。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『アリになれないキリギリス』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。