大野副杜氏が、思い出し笑いしている。気の毒を通り越して、滑稽だったようだ。

ちょうど話が出たところで、大野副杜氏に富井田課長を呼んでもらうと、その宴会のことは、よく覚えていた。

「ええ、ええ。それは見事な技なんですよ。あの店の式包丁は。もちろん、僕も出てました。うちの課の若い奴らも一緒です。それぞれの自家用車で行って、帰りは代行で。こっから車で一時間ほど、有名な割烹料理屋です」

大野副杜氏から聞いた話をふると、富井田課長は、天を仰いだ。

「そうなんですよ。ピーピー、ピーピーしちゃいまして、何度も何度も中座する始末です。おめでたい席なのに、本当に申し訳ないことをしました。でも、酒を一滴も飲めなかったので、圧倒的な割り勘負けです。今、思い出しても、悔しいったらありゃしません」

相当悔しかったと見えて、隅から隅まで、ハッキリと覚えている。元々、記憶力がいい上に、素面(しらふ)だったからだろう。

秀造や大野副杜氏の話と、大きく矛盾する話は、特に無かった。
富井田課長が帰っていった後、勝木は手元のメモを確認した。

店の従業員からの聞き込みからも、状況に間違いはなさそうだった。蔵元と、杜氏以外の蔵人全員、それに播磨農協関係者に県庁職員が、その時間飲んでいた。特に、長時間中座した者もいなかったらしい。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『山田錦の身代金』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。