「向こうまでの足は、酒を飲みに行くんだから、車ではないやろ?」

記憶が蘇ってきたらしく、秀造が即座にうなずく。

「マイクロバスです。運転手付きで借りて、店まで往復しました。杜氏を除いた蔵人全員と、農協の方たちが一緒でした。県庁職員は、自分たちの車で行ったんじゃなかったかな。帰りは、代行で帰ったんでしょう」

「宴会は、前々から決まっとったんか?」

「半年前には。甑倒しは、前の年の秋に立てる醸造計画で日程が決まります。だから、その後の宴会も同じです。今年は、農協さんが、参加するんで会場を見直したくらいで」

宴会会場は、蔵から車で一時間ほどの割烹だった。地元では、式包丁で有名な店で、勝木も行ったことがあった。

「白装束を羽織り、長包丁で魚を捌く儀式が、ことのほか厳かで。その年の酒造りが終わったと、しみじみ感じるんです。農協さんたちは、初めて見たって、感激してました」

烏丸酒造の酒を持ち込んだ宴会は、夕方七時から始まり、十時過ぎに終了したと言う。

「なんで杜氏は、宴会に来いへんかったんやろう?」
勝木は、そんな大事な宴会に杜氏が来なかったというのが、気になった。

「それが、全然わかんないんです。心当たりもありません」

その後も二、三質問した後、秀造を解放し、大野副杜氏を呼んでもらった。勇んでやって来たところで、さっきと同じ質問をする。ほぼ、同じ答えが返ってきた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『山田錦の身代金』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。