第二章 ゼロからのスタート

妻との出会い

結婚後の住まいを探していたのですが、いい物件がありません。今津(現・中津市)のおじさんにアパートを探してくれるように頼み、住む家が決まらないうちに新婚旅行に出かけました。

行き先は阿蘇です。鈍行列車を乗り継ぎ、通学の生徒たちと同席の旅でした。「鈍行で新婚旅行なんて……うふふ」と女子学生に冷やかされているような視線を感じながら、阿蘇のホテルに着いた時にはもう夜中でした。

ホテルにはスケートリンクがあったので、生まれて初めてスケートをしました。滑って転んで腰を痛め、散々でした。

翌日ホテルからおじさんに電話を入れ、「アパート決まった?」と尋ねると、「中津にちょうどいいところがあったので、そこに決めた」とのことでした。「荷物も運んであるよ」とおじさんは言いました。

「ああ、よかった」と喜んで旅行から帰り、そのアパートに着くと、家財道具やタンスなどが寝る場所もないくらいに、あちこち置きっぱなしです。とりあえず押し込んだという感じです。

仕方がありません、至急に探してもらったので文句も言えません。

ところが夜電気を消すと、隣の電灯の光が板壁の隙間から漏れてきます。話し声が聞こえるのです。

「わっ、これは大変だ」とタンスや家具類をその隙間のほうに押し当てました。ベニヤ板一枚で仕切られただけの部屋だったのです。夜は物音も出せない状態で、テレビも音を小さくしていました。