第1 不法に公訴を受理したとの主張について 省略

第2 医師法違反事実(原判示第一)についての事実誤認の主張について

論旨は、要するに、原判決は、甲病院院長であった被告人が、甲病院整形外科医師で、Aの主治医として同女の診療をしていたD医師において、平成十一年二月十一日午前10時44分頃、甲病院でAの死体を検案した際、E医師から看護師がヘパリンナトリウム生理食塩水と消毒液ヒビテングルコネート液を取り違えて投与した旨の報告を受け、かつ、同死体の右腕の血管部分が顕著に変色するなどの異状を認めたのであるから、所轄警察署に届け出なければならないのに、D医師らと共謀の上、上記異状を認めたときから24時間以内にD医師をして所轄の警察署にその旨の届出をさせなかった(原判示第一)という医師法違反の事実を認めたが、

①D医師は、Aの死亡の確認(死亡宣告)をした際、主に病死を疑っていたもので、Aの右腕の色素沈着を認識しておらず、死体を検案していないし、死体の検案をした認識もなく、死体の異状を認識していなかった、

②D医師は自らの届出義務について意識していなかったから、届出を甲病院に委ねていたということもあり得ず、甲病院での被告人らの会議も医師法上の届出義務を意識したものではなかった、

被告人はD医師が死体を検案したことを全く知り得なかったし、知らなかったからD医師と被告人との共謀もあり得ない、したがって、上記のとおり認定した原判決には、事実の誤認がある、というのである。

そこで、所論にかんがみ検討するに、D医師が平成十一年二月十一日午前10時44分頃、Aの死亡を確認した際、その死体を検案して異状があるものと認識していたものと認めた原判決の認定には誤りがあるというべきである。以下、その理由を説明する。