そんなさりげない会話の中に地域の病院を守ってこられた大島先生の心が垣間見えるような気がします。国民健康保険の診療施設が多い辺地、島嶼(とうしょ)の医療機関はどこも大変です。そんな中で医療を続けてこられたのは先生の情熱もありますが大きな支えは住民の支えであったのではないかと思います。

ちなみに大島先生の医療は創作劇にもなっています。そんな住民の方々のお気持ちが感じられたから大島先生も頑張られたのではないかと思います。

「地域の方々が支える」。先頃勇退された鹿児島県川内市下甑(しもこしき)島手打診療所の瀬戸上先生の場合も同じように感じます。「ドクターコトー」のモデルにもなった瀬戸上先生も当初は「数年で辞めるつもりだった」そうです。それがずっと続いたのはひとえに住民の方々からの支えがあったからだろうと思います。

瀬戸上先生が島を去られる時住民全体による送別会が設けられたと聞いておりますがそんな結びつきがあったからこそ瀬戸上先生も「数年で辞める」ことができなくなったのではないかと思います。招聘の時にはやいのやいのとそれこそ下にも置かぬもてなしをしながらいざ赴任すると後はサポートなし。残念ながらそんな話も耳にします。

地域の医療は単に医療機関の問題、行政の問題ではありません。「住み慣れた地域で安心して暮らせる」一番のキーポイントは医療です。医療が無ければ住民の方々はもっと住みよい地域を求めてその地を去り、地域は衰退してしまいます。

単に医療機関の運営が赤字だからの問題ではないのです。そのことをわかっている行政の方は少ない。目先のことではなく遠く将来を見据えた地域医療を考えて欲しいものです。その中心になるのは地域住民です。

※本記事は、2020年6月刊行の書籍『新・健康夜咄』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。