社会学者の谷嶋喬四郎は、こうした地理や気候がその土地の社会のありようを決め、人々の個性を形づくることを「精神風土」と呼びました。

いま、新型のうつをわずらう人が急激に増えていて「国民病」の様相をていしていますが、その背景に仕事や人間関係のストレスがあります。賃金が払われないのに残業を引き受けて(あるいは引き受けざるをえない状況に追い込まれて)しまったり、上司からのむちゃくちゃな命令やパワハラに抵抗できずこころを病むまでになってしまったりするのは、日本の精神風土がマイナスに影響してしまっているからではないでしょうか。

もちろん、うつというこころの病は中東にも欧米にもありますし、表面的に確認できる症状やそれに対処する薬もほぼ同じです。しかし、その根本にある原因や発症にいたるメカニズムは、精神風土が異なる以上「別物」であるはずです。

患者さんのこころの病を治して社会復帰できるように手助けするのが精神科医の使命であるならば、精神風土という根っこの部分を理解しようとしなければ、解決に導けないだろうというのが私の考えです。

さて、そのような視点で日本人のこころの病にどう対処するかですが、こころの病を抱えていたら精神病院に入れておく/健康になったら社会に出すと明確な線引きをしたがるのは、きわめて欧米的であり日本にはそぐわないと私は思います。

日本の精神風土は、四季のうつろいのように「あいまいな部分」を許容するものです。また、異質なものを排除するのではなく、共同体に受け入れる懐の深さもあるはずです。こころの病をかかえた人を社会で支え共存していくのは、日本でこそ機能するシステムかもしれません。

わが国は戦後、欧米の精神医療システムを採用しそのまま今日まできましたが、そろそろ「日本の精神風土にあった精神医療のかたち」を考え、移行すべきときであると、私は考えます。

※本記事は、2017年10月刊行の書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。