Chapter6 理想と現実

それは唐突に訪れた。

ある日の昼下り、林が泉の畑を手伝っていると、沼田がそっと近づいてきて耳打ちした。
「実は、折り入って内緒の話があるんだ」

夕刻頃、少し顔を貸してほしいという。早坂の言付らしい。

林は思った――女子中学生の埋葬以降、早坂・沼田ら歴史不変派はなりを潜めている。犠牲者を出したことにショックを隠せないのだろう。だからといって、林は彼らを打ち捨てていいとは思っていなかった。彼らだって真剣に未来を考えていると信じていたからである。

――仲直りして、力を合わせるべきだ。

林は和解の糸口になればと、沼田の問いかけに応じ、夕刻頃には身体を空けておくと伝えた。

太陽が西の山の稜線にかかる頃、林はひとり、沼田に呼び出された場所に向かった。それはかの女子中学生を埋葬した見晴らしの良い高台だった。すぐそばが崖で、宵時に訪れるには危ない場所だが、わざわざそこを指定してきたことに、林は何か深いものを感じた。

ドライな早坂も、きっと彼女のことで胸を痛めているのだ。墓に辿り着いた時、東の空はすでに暗く、足元から伸びる影がどんどん闇に溶けていった。明かりを持って来ればよかったと思った。その時

「林か?」
背後から声がする。