「明日でもいいんじゃないですか。今日はお風呂に入って、早く寝ましょうよ」

「そうはいかないのよ。明日になると感じたことを忘れたり、感じ方が変わってるかもしれないから。まゆみさんは、わたしのことは気にしないで早く休んで」

「そうですか。じゃあ、遠慮なく先にお風呂に入りますね」

まゆみがシャワールームに消えるのを見て、沙也香は再び資料の紙片にメモを書き入れることに没頭しはじめた。

彼女はなによりも自分の直感力を大事にしている。論理的な思考は、むしろ苦手なほうだ。だからそのとき感じたことをすぐ書き留めることにしている。そうしておかなければ、記憶が薄れたり、感じたものがいつの間にか変質していることがよくあるからだ。

明日の朝は少しゆっくりして、また高槻教授の家を訪れ、借りて帰る資料を選別する予定にしている。それまでに今日見て回って感じたことをまとめ、これからどういったことを学び、調べていくべきか、大まかな方針を立てておかなければならない。

やらなければならないことが多すぎて、なにから手をつけていけばいいかわからなくなってきはじめていた。身体は疲れきっているが、まゆみのようにゆっくり休むわけにはいかないのだ。

※本記事は、2018年9月刊行の書籍『日出る国の天子』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。