まったく、うらやましいやつである。司礼監では師父のおぼえめでたく――それは、出世の階段を、着実にあがっていることを意味する――、私生活でも、菜戸(さいこ)と仲むつまじくやっているようだ。

田閔(ティエンミン)は、どんぶりをかたむけて、あまさず湯スープを飲み干した。

「ああ、うまかった。さむい季節に、熱い麵は、最高だな。ときに、叙達(シュター)、おぬしは何かよい報せを聞いてないか」

「え?」

「何も聞いちゃあいないようだな。それがしが仄聞(そくぶん)したところでは、年明けの配置替えで、正戸(チャンフー)になれるそうだぞ」

「え?」
このまえ、たのみ込んだときは、人員に空きはないと言ったではないか。

「司礼監(しれいかん)だ、司礼監。それがしと同じ」
有能な官吏のつねで、ふだんは表情をあまり変えない田閔(ティエンミン)が、めずらしく表情をゆるませた。

「じつは、李清綢(リーシンチョウ)師父が、来春正月から、秉筆(へいひつ)を拝命することがきまったのだ。そうなると、事務手続きがふえるから、読み書きができる秘書官を、ふやさねばならん。それで、おぬしを再度、推薦させてもらった。すると、師父は『あれはよい、すぐにこちらへ引っぱるよう手配しよう』とおっしゃったのだ」

「……まことか?」
「噓をついてどうする」
「この前はことわられたから、もう、のぞみ薄だと思っていたのだが……」
「この前はこの前、今は今だ」