第3章 東京都立広尾病院事件判決

最高裁判決の意味

【要旨2】部分

この最高裁判決について、佐伯仁志教授は、「医療過誤によって患者を死亡させて刑事責任を追及されるおそれのある医師に医師法第21条の届出義務を課し、その違反を処罰することは、憲法第38条1項(自己負罪拒否特権)に反する疑いが強い。

すなわち、医師法第21条の届出義務制度は、一般的には合憲だとしても、業務上の過失によって患者を死亡させた医師に適用される場合には、適用違憲となる疑いが強い」と述べ、「医療過誤を犯して刑事責任を追及されるおそれのある医師は、医師法第21条の届出義務を負わないものと解すべきである」と述べている(ジュリスト増刊『ケース・スタディ生命倫理と法』、二〇〇四年十二月P69)。

高山佳奈子教授も「人の生命や健康に資することこそが医師という資格の特質であって、刑事司法への協力は医師の資格と本来関係がない。医師法第21条の義務は、まさに捜査の端緒を得させるために設けられているのであるから、これが自己負罪拒否特権と正面衝突することは明らかである(ジュリストNo.183『医事法判例百選』、二〇〇六年九月P8)」と論破している。

また、院長を共同正犯として処罰したことに関して、「共同正犯が成立するには、一般に、互いの行為を利用・補充し合う関係が必要であり、不作為の場合には、作為を妨げる方向に働くかなり積極的な関与が必要だと解される。そのように強力な関与ならば、強要罪その他の犯罪類型で補足すれば足りる」とし、院長を共同正犯とした判決に批判的見解を述べている。