初執刀

臍の真上の皮膚を切開すると、腹直筋鞘(ふくちょくきんしょう)が出てくる。

「コッヘルください」

腹直筋鞘を掴んで引き上げる。こうしないと臍部は沈んでいくため、うまくお腹の中に到達できない。

「電気メスください」

腹直筋鞘を切開して突破し、腹膜に到達する。

「お腹の中に入りました」

腹膜を突破すると、腹腔内に入る。

「カメラポート入れます」

臍に開けた穴からカメラポートを入れる。

「じゃあ気腹」

岡島先生が看護師さんに指示を出す。カメラポートが入ると気腹チューブをポートに繋いで気腹する。気腹とは、お腹の中に空気を入れて膨らますことだ。

普段お腹の中には空気は入っておらず、ほとんど空間がない状態である。気腹することでお腹に操作するスペースを作る。

「癒着もないし、胆嚢の炎症も治まっているみたいだね」

岡島先生は慣れた手つきでカメラを操作して、腹腔内を見渡す。今日は岡島先生がスコピストだ。

「はい」

僕は岡島先生の言葉に頷く。この患者さんは、一度胆石発作を起こしただけで、既往歴、手術歴ともになく、ほとんどまっさらな状態である。手術はそれほど難しくはなさそうだ。

「次に何をする?」
「5㎜ポートを入れていきます」
「そうだね」

執刀医用に2つ、助手用に1つ、計4つの穴を開け、5㎜ポートを装着する。このポートから手術器具を入れて手術を行う。