「ショーと図書館に行って、ちょっと目を離した隙に何処かへ行ってしまったの。図書館中探しても見つからないの……」
「トイレも探したのか?」

ショーは重度の知的障害があり、自閉的傾向が強い。自閉的傾向がある子供は多動で、水とか細い物(紐、くさりなど)へのこだわりが非常に強いという。

ショーもご多聞にもれず、水とか細いものへのこだわりはそうとう強い。水で遊ばせると一日中でも遊んでいる。飽きることを知らないのだ。

それでトイレの質問をした。過去に手痛い失敗があったからだ。

受話器の向こうからは、車が通る音、ざわざわとした人の声等、騒々しい音が聞こえる。どこかの公衆電話から掛けているのだろう。私が、騒音でよく聞こえなくなる度に聞き返すものだから、妻は段々、苛だってきて大声で話しだす。

「図書館中のトイレも探した、男子便所も探した。近くのヨーカドーも探した。もう一時間以上探したけど見つからないの! 今、警察に迷子の捜索を依頼しました!」

最後の方は妻が泣きながら話していたので聞き取ることができなかった。しかし、私にはそれだけで何が起こっているか充分理解できた。背中や脇の下から、じっとりと冷や汗が出るのを感じていた。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『ショー失踪す!』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。