第二章 一日一合純米酒

(十)

大男は、鉄板の丸い凹みに生地を流し込み、たこも載せた。竹串で、クルクル回し始める。注文を受けてから、焼くのが流儀らしい。

回転がどんどん速くなり、目にも止まらないスピードになる。見ていて惚れ惚れする手捌きの良さだ。

細く長い目には、何事も見逃さない鋭さがあった。焼き上がりを判断し、絶妙のタイミングで、ポンポンポンっと箱に詰めていく。

焼き上がったたこ焼きは、外側がカリッとかたく、中心部はとろり。小麦粉の風味が、香ばしい。渡されて一口食べると、思わず口をついて、歓声が出た。

「おいしい!」
「ありがとうございます」

たこ焼き屋は、にやりと微笑んだ。
二個三個と食べすすみ、あっという間に、一皿空になる。ふと、疑問が浮かんだ。

「さっきの子供たちは、なんで口に合わなかったのかしら」

細く鋭い目から、強い光が出た。
「大人の味なんで、子供にはわからないんじゃろ」

そういえば、かかってるソースも甘くない。野菜の味が強かった。

「このソース。自家製ですか?」

大男が、我が意を得たりと微笑んだ。

「よくわかったの。十種類の野菜と果物を煮込んでての。子供に受けないのは、化学調味料が、入ってないからじゃろう。粉も国産小麦じゃしの」