それならば、医療と介護を一体化すればいいではないかと思われるかもしれませんが、実際の政策は逆へ向かっています。医療と介護をなるべく切り離しておかないと、医療費が増大して国民皆保険制度が維持できないからです。

しかし、ほんとうに考えなければいけないのは「お年寄りにとって必要なケアはなにか」であって、医療と介護の境界線をどこに引くかではないはずです。認知症は平成17年5月まで「痴呆」と呼ばれていましたが、統合失調症もまた旧名は「早発性痴呆」といいました。つまり認知症も統合失調症も症状としてはほぼ同じであり、精神医療には対処のノウハウがあるのです。

とはいえ、精神病院に入院させてしまうことにも賛成はできません。最近、統合失調症やアルコール依存症患者が減って大量の空きベッドを抱えている精神病院が、認知症のお年寄りをつぎつぎ入院させています。精神病院には医師・看護師がいますのでたしかに医療は提供できるのですが、入院というかたちで社会との接点を奪ってしまえば、認知症はどんどん進行してしまいます。また、それを投薬だけで食い止めるのも健全とはいえません。

現在、私たちのクリニックでは「シルバーデイナイトケア」と称して、60~90代の約200人のお年寄りの面倒をみています。参加者のお年寄りは毎朝、無料送迎車でクリニックにやってきて、午前・午後・夜間に医療の観点から設計された各種プログラムを受け、昼と夜には無料提供の食事をとり、希望により個室でゆっくりと入浴もして、夜7時にはまた無料送迎車で住みなれたわが家に帰っていきます。

脳も臓器の1つですから高齢になれば記憶・知能を中心に、意欲や思考・感情等さまざまな機能が低下するのは当然です。いかに高度な医療をしても老いに抗うことは不可能ですが、認知症の進行を遅らせあるいは症状とうまく折り合いをつけながら、できるだけ社会のなかで余生を過ごせるようサポートすることは可能です。

医療としてのシルバーケアと、福祉介護としての生活のケアは、似ているように見えてじつはまったく違うのです。

※本記事は、2017年10月刊行の書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。