参─嘉靖十五年、宮中へ転属となり、嘉靖帝廃佛(はいぶつ)の詔を発するの事

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私の花は、はかなく消えた。

自分が、宦官、それも、黒戸(ヘイフー)であることもわかっている。男をすてた宦官が、女を欲しがるなど、いい物笑いの種となるのが落ちであろう。

浄身した宦官が、所帯をもつなど夢のまた夢である。大部分は、終生、一人だ。それも、わかっている。

憧れるだけでよかったのだ。田閔(ティエンミン)のように、菜戸(さいこ)にほしいなどと、大それたことは、考えもしなかった。

ときどき、言葉をかわすことができれば。そして、ときどき、あの笑顔が見られるのなら――それ以上のことは望まなかったし、望むべくもなかった。

だが、その花は、手のとどかない、日月(にちげつ)の彼方へと、去ってしまった。

ことの仔細は、こうである。

あの日、石媽(シーマー)に見おくられて、車上の人となった、その後のことである。大千佛寺・清涼殿の前で、はじめて洛瑩(ルオイン)の父、曹察(ツァオチャー)にまみえた。

曹察(ツァオチャー)は、住職と、なにやら話し込んでいた。

彼は、私を見るや立ち上がり、上座へとすすめた。ととのった顔立ちに、品位あるものごし、この父にしてこの娘ありか、と感じ入ったことであった。

「叙達(シュター)どの、ようこそお越しくださいました。今日は、私どもの勝手な招きに応じてくださり、まことにありがとうございます」

「いや、私は」