統合失調症は入院しなくていい

精神科であつかう代表的なこころの病に「統合失調症」(精神分裂病)があります。 

統合失調症の症状は、いろいろです。感情を爆発させたり、大声で叫んだり、ふさぎ込んだり、言葉が出なくなってしまったり、妄想を見たり幻聴を聞いてわけのわからないことをいったり、パニックをおこして暴れたり――。つまり、思考や感情のコントロールがきかなくなってしまうのです。どのような症状がどんなタイミングで出るかは、人によっても状況によっても違ってきます。

昔から多くの学者や精神科医が研究してきましたが、どうしてこのような病気が発症するのか、そのメカニズムや根本的な原因はいまだに解明できていません。症状を抑える薬はあり、さまざまな治療法も確立されていますが、残念ながら「これをやれば確実になおる」というものはまだありません。

原因もわからず確たる治療法もない病気は、社会的にはひじょうにやっかいです。奇声を発したり意味不明なことをいって暴れたりすると、周囲の人びとは「こういう人はなにか事件を起こすのではないか」と怯えたり、警戒します。

そこで、日本ではずっと「統合失調症は精神病院に入れて隔離する」という措置がとられてきました。精神病院はたいていが人里はなれた山のなかにあって、周囲を高い塀でぐるりと囲まれ、閉鎖病棟では各病室が施錠され自由な出入りができません。

そういうところに入院させておけば、病院外で問題は起こりません。ですが、統合失調症は完全には治癒しない病気ですから、入院期間は長期にわたります。最近は違いますが、昔は精神病院といえば「こころの病をもつ人たちを一生お預かりするところ」だったのです。

病気の人を病院に入れて治療を受けさせるわけですから、行政も周囲も「それはあたりまえのこと」と思うかもしれません。しかし、奇妙な言動はあるかもしれませんが、統合失調症は決して社会生活が送れないわけではありません。過度な感情のブレは薬でコントロールできますし、健康的な生活を送れば症状も安定するのです。

そういう人たちを長期間、病院に閉じ込めて人生を謳歌する機会を奪ってしまうのは、あまりに気の毒ではないでしょうか。

事実、私のクリニックには多くの統合失調症の人が、入院せずにデイナイトケアに通っています。

そもそも、統合失調症が病気であるかも、“線引き次第”ではないでしょうか。イタリアでは、すでに「統合失調症」という病名はありません。フランコ・バザーリアという精神科医が、「それ(統合失調症)は病気ではなく、人間の個性の1つである。彼らにも社会で働き、人びとと共に生活し、人生を謳歌する権利がある!」と主張して、精神病院を全廃してしまったからです。

そう、いまイタリアには精神病院(入院施設)が1棟もないのです。それでも、精神医療はきちんと機能しています。社会が混乱に陥ってもいません。統合失調症の人たちは、必要なサポートを受けながらもそれぞれに仕事をもち、社会の一員として立派に生活しています。

日本には日本の事情がありますからなんでもイタリアにならえばいいとは思いませんが、あまりに入院治療に偏った現在の医療体制は、いいかげん見直しが必要なのではないでしょうか?

※本記事は、2017年10月刊行の書籍『ヒューマンファーストのこころの治療』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。