ガラスの反射で内部が見えにくいのか? それとも内部が暗いのか? 開店前のこと、まだリング・シャッターなどが閉まっているのか? 盛んに頭を動かしたり傾けたりしている。

宗像はさまざまなケースを想像しながら、しばらく無理な姿勢を続けていたのだが、目を瞬かせたその一瞬、エリザベスの姿は視界から消えていた。慌ててその場所へ駆けつけると、《ロドア画廊》と彫り込まれた看板が袖壁に取り付けられている。

《ロドア画廊》は周囲の数ある画廊の中でも一番大きく、店構えも立派だった。宗像はショー・ウィンドウの端に張り付いてこっそり中を覗き見た。後ろ姿のエリザベスと、店主であろうか、横向きの男とが、一枚の絵を挟みながら何かを話し合っている。

目を凝らし、奥を見詰めると、まるで不思議な力で吸い寄せられるように、ピントがその絵にフォーカスした。目は大きく見開かれ、呼吸は荒くなり、ガラスに添えられた手も細かく震えた。そこで見た我が目を疑うものとはいったい何だったのか?

それはイーゼルに載せられた五十号ほどの油絵だった。しかし、まさに信じがたいことなのだが、その絵とは、妻アンナを正面から描いたと思われる、ピエトロ・フェラーラ風の油絵だったのである。

そう確信した瞬間、宗像は同時にもう一つ別の事実に思い当たり、ひと言の声も発せず、呆然とそこに立ち尽くした。心臓の鼓動以外の音など一切聞こえぬほどに打ちのめされ、もはや頭の中は真っ白になった。

もう一つ別の事実とは? それは、初めて会ったときからどこかで見たはずの顔と思いつつ、どうしても思い出すことのできなかったエリザベスの顔がそこに描かれていたのである。

※本記事は、2020年8月刊行の書籍『緋色を背景にする女の肖像』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。