アリとキリギリス

それを見ていた他の三年生も近づいて来た。

「どうした?」
「いや、こいつが俺に指図するんでな」

それを聞いて、部長が笑った。
「お前、そんなに偉いのか?」

「そういう事では……」
禅は返す言葉がなく、下を向き黙っていた。

「努力しているとか頑張っているとか、そんな事で試合に勝てれば苦労しないんだよ!」

禅は、もっともだと思った。

「お前、ここのルールが分かってないらしいな、ここでは俺たちがルールなんだ! 嫌だったらやめてもいいんだぞ!」

禅は慌てた。
「す、すみません……」

そんな禅を見て、部長が怒鳴った。
「お前も一緒に走れ!」
「え!?」
「嫌なのか?」

禅は下を向いた。もちろん納得はできなかった。しかし……。
「分かりました……」
禅は、そう言うと賢一の方へ走って行った。近づいて来た禅に賢一は申し訳なさそうに言った。

「禅、悪いな……俺のせいで……」
「お前のせいじゃないよ、あいつらがバカなんだ」

そう愚痴を言いながら走っている二人を見て、三年生が怒鳴った。
「お前、黙って走れ! もう十周!」