第二章 一日一合純米酒

(十)

烏丸酒造から、最寄のコンビニまで、歩いて二十分ほどだった。田んぼのど真ん中、十字に交差した農道の角に建っている。まわりには、田んぼしかないのに、駐車場は満車。店内も客で、賑わっていた。

葉子は、複合機でメール添付のファイルを印刷。コンビニのコーヒーを飲みながら、赤字を入れて修正した。スマートフォンで写真を撮り、添付メールにして出版社に送り返す。パソコンすら不要、便利になったものである。

週刊誌に連載中の酒蔵紹介の記事は、おかげさまで好評。連載も、三年を越えた。
コーヒーを飲み干して、店を後にする。
相変わらずの曇り空だが、黒雲は去った。多少、明るさが出てきている。もう雨の心配は、なさそうだ。

散歩がてら、ぶらぶら田んぼの間の農道を歩き出す。まわりすべてが、刈り終わった稲株ばかり。視界良く、どこまでも広々して見えた。

西の地は、まだ陽が長い。秋も深まりつつある今日この頃。東京ではもう夕暮れ時のはずだが、ここの曇り空には、まだ明るさが残っている。

慣れないと、田んぼの距離感覚は、掴みにくい。遠く見えた田んぼの中の道は、あっけなく終わった。集落に入ると、瓦屋根の農家が、ぽつりぽつりと建っている。くねくね曲がった土の道を行けば、間もなく烏丸酒造のはずだ。

蔵の近くまで行くと、鎮守の森があった。こじんまりした神社が、目に入る。蔵への近道と目算し、鳥居をくぐってみた。

木々鬱蒼とする参道を通ると、木陰では肌寒さを感じる。足元の草むらで、リーン、リーンと、鈴虫が鳴き出した。

ちょうど、村の秋祭りに、当たったらしい。幟(のぼり)がはためき、二、三屋台が出ている。風にのってラジオが、聞こえてきた。ちょうどニュースの時間なのか。どこかの屋台で、かけているのだろう。