洋一は戸惑いながらも、お上品な二人のテーブルに加わる。ぽつぽつと三人は話を始める。昔話から現在のことについて。今までどこでどんな暮らしをしてきたのか。

最初はぎごちなかった会話がだんだんと滑らかになってくる。リラックスして暖かい空気が生まれる。
それはそうだ。僕達三人は、血がつながった家族なんだから。

夢物語はそこで終わる。自分でもおかしな妄想だと分かっている。だいたい母親は一年半前に亡くなっているし、妹とは、洋一が小学校二年のとき以来会っていない。親が離婚したからだ。当時二歳か三歳だった妹は、父親に引き取られていった。

洋一は妹の顔を覚えていない。向こうなんて尚更だろう。もしかすると、兄がいることすら知らないかもしれない。父親が話していなければ、知らずじまいでもおかしくはない。

父親の顔も、洋一は覚えていない。幼な過ぎたということもあるし、過去の写真は母親がすべて処分してしまったからだ。母親は、父親を天敵のように忌み嫌っていた。だから洋一は、父のことを考えると、なんとなく恐ろしい鬼のような顔を想像してしまう。母がそんなに嫌うのだから、きっと怖くて嫌な奴なんだろう、と漠然と思う。

洋一の妄想の中に、父は含まれていない。母にずっと刷り込まれていたせいか、あまりいい父親像を抱けないのだ。だからアンフィニに来る家族連れで、いかにも優しそうで頼もしげな父親を見かけると、少し頭が混乱してしまう。なんだか珍しいものでも見たような気分になるのだ。

父親なんか別にどうだっていいや、と洋一は思うのだった。

※本記事は、2020年10月刊行の書籍『空虚成分』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。