第二章 日本のジャンヌダルク

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【法隆寺(ほうりゅうじ)】

「新創建? いままでのと違う建物を新たに創建したという意味ですか」
「そうです、そのとおりですわ。いやいや、すばらしい理解力ですなあ」

「新創建って、どういうことですか」
まゆみが考えながら聞いた。

「ええですか。いまの伽藍は、若草伽藍とは違う場所に建ってます。そして六七〇年に若草伽藍が全焼したとき、すでにいまの伽藍はかなりできあがっていた。つまり若草伽藍は焼けてしもうたが、いまの本堂や五重塔は焼失を免れた。もとの法隆寺が焼ける前から、すでに新しい伽藍の建築の計画は進められていたはずやから、再建ではのうて、新創建という言葉を使うべきやということですわ」

「ふーん。なんだかよくわからないけど、要するに焼けたあとに建て替えたんじゃないってことですね」
まゆみが首をかしげながら確認した。

「そういうことです。そう考えなければつじつまが合わない、ということをいっている人もいるということですわ」

「その説が、いまの主流になっているんですか」
沙也香が確認するように訊いた。

「うーん、どうやろか。やっぱり再建説にこだわっている人が多いんと違いますか」
「昔からの考え方に固執しているということかしら」

「それもあるかもしれへんけど、この新創建説にも難点がありますからな」
「難点ですか。どんなところかしら」

「その一つは『日本書紀』の記事ですな。六七〇年の火災では、一屋も余すところなく焼けた、と書かれています。もしそのとき、いまの伽藍が建っていたのなら、この記事のとおりに一緒に焼けていたはずだと反論しています」

「ええ、そうですよね。そのとおりだと思います。でも新創建説を支持している人もそれくらいは考えているでしょう。その反対意見に対してはどう説明しているんですか」