弐─嘉靖十三年、張(チャン)皇后廃され、翌十四年、曹洛瑩(ツァオルオイン)後宮に入るの事

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「明日、出立(しゅったつ)になるのか」
「はい」
「……わかった、それなら、いまから参ろう」
「大丈夫でしょうか」
「心配には及ばぬ……ほら、このとおりだ」

勢いよく、立ち上がってみせた。が、すぐさま身体が平衡感覚をうしない、不覚にも、よろめいてしまった。

「あ、あっ」
膝をつくより前に、曹洛瑩(ツァオルオイン)に、ささえられた。
「無茶を、なさらないでください」
私は、母親に叱られた男の子のように、首をすくめた。
「……すまぬ」

「やめといたら? あんた三日間、ほとんど何も食べてないんでしょ? 歩けやしないわよ。それに、もし、あの子どもらに見つかったら」
石媽(シーマー)が、口をはさんだ。

「そうは言っても、今日をのがせば、つぎの機会はいつになるか、わからぬ」
「どうしても行くの?」
「ああ」
「はやく、かえっておいで」

「大丈夫だ――きっと。むかし、建昌伯(けんしょうはく)が来たときは、朝からはじまった宴会が、その日のうちに終わらなかった。日暮れまでには、もどる」

おそらく、ご自慢の宝林館にご案内、となるにちがいない。あの建物には、よりどり見どりの美酒と、美女とが、蔵(かく)されている。酒席は二、三日つづくこともあるから、日がえりなど考えられない。漁覇翁(イーバーウェン)と幹部は、そっちに貼りつくことになるはずだ。