「笹見平造幣局の開局だな!」

盛江は興奮気味に言った。

「それじゃさっそく、お札をつくろう!」

CGに興味があり、デザインソフトを扱える岸谷が、パソコンをオンにしてモニタの前に座を占めた。

「マウスに触れるの、久しぶりだなあ」

岸谷はデザインソフトを立ち上げた。彼の肩越しに、林、岩崎、泉、盛江が頭を寄せ合い、モニタに目をやる。五つの顔に青白い光が映る。

「岸谷君、お札はどんなデザインにするの?」
「単位はやっぱ円か?」
「数字や文字を書いても縄文人に伝わらないよね」
「なんでもいいから早く印刷しようぜ」

興奮気味の外野勢に、岸谷は顔をしかめ、

「焦って作ってもダメだ。もうちょっと、いろいろ考えてから作ろうぜ。やみくもに刷ってばらまいて、肝心のアスファルトの価値と整合性がとれなくなったら、すぐにインフレになっちゃうよ」
「岸谷の言うとおりだ」

岩崎はうなずいた。

「俺が発案したのは社会における分業、笹見平が金融としての役割を担うための貨幣だ。ただの『食い物交換券』を作りたいんじゃない」

林は同意し、

「では、もう少し細かいことを詰めてから制作に入ろう」

それ以降、彼らは夜な夜な集まり、貨幣づくりの会議を催した。しかし会議は、開始早々、長きにわたる中断を迎えることになる。

※本記事は、2020年7月刊行の書籍『異世界縄文タイムトラベル』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。